シビアな世界を描く漫画。『おおきく振りかぶって』、『バクマン。』、そして。

 先日「『バクマン。』は『DEATH NOTE』へのアンサーコミックかもしれない - 三軒茶屋 別館」という記事を書きましたが、前回記事を引用したotokinokiさんが更なる考察記事をアップされました。
2008-09-01 
 otokinokiさんは「シビアな世界」を描く作品として「体育会系」の『おおきく振りかぶって』(以下:「おおぶり」)、「文化系」の『バクマン。』を取り上げて比較されていますが、フジモリは真っ先にこの漫画を思い浮かべました。

のだめカンタービレ(1) (講談社コミックスキス (368巻))

のだめカンタービレ(1) (講談社コミックスキス (368巻))

 『のだめカンタービレ』(以下:「のだめ」)はTVドラマ化およびアニメ化され、一大ブームを巻き起こした漫画です。この漫画は、クラシック音楽を軸にした、主人公の変人ピアニスト・のだめとオレ様指揮者・千秋の二人を中心に繰り広げられるコメディなのですが、描かれている世界はかなりシビアです。
 簡単に列挙しますと、
・Sオケ編。卒業間近にSオケメンバーの進路が語られるが、音楽家として進む人間は少ない。
・R☆S編。顔合わせのときに峰以外は「このオケだけでは食べていけない」と割り切っていた。
・留学編。世界的指揮者へと駆け上っていく千秋に懸命に追いつこうとするのだめだが、自身の限界と離されていく距離に焦燥感を感じ、ついに追いつくことを放棄しようとする。←今ここ
 作者・二ノ宮知子はSオケ編で登場させた個性豊かなキャラたちを一度ふるいにかけ、さらにR☆Sで登場させた「世界的にも通用する実力を持つキャラ」たちも留学編ではほとんど登場させていません。(オーボエの黒木ぐらいだが、彼もまた悩み苦しんでいる)
 現在は千秋とのだめの成長を丁寧に描いている留学編ですが、最新巻では「千秋への恋慕」をモチベーションに留学し、自身を高めていたのだめが、「それでも追いつけない」という感情、限能感を感じてしまいます。ある種、

自身の倫理性を維持する根拠をどこに置くか?

に近い状況かと思います。*1
 雑誌連載を読んでいないので現行どうなっているのかは不明ですが、最新巻の最後のほうでシュトレーゼマンがのだめの背中を後押ししようとしています。とはいうものの、彼は「機会」を与えるだけで、スキルを上げる手助けをするわけではありません。悩みを解決しレベルアップするのは「自分自身」だという、ある意味当たり前ではあるもののシビアな世界がそこにはあります。

 「のだめ」の着地点としては「困難を乗り越え成長した千秋とのだめの競演」に落ち着くかと思いますが、一握りしか成功することのない(そしてそれは主人公といえど同じ、という)世界の中で、「のだめ」もまたシビアな世界を「逃げずに」描いているのだなぁ、と思います。
【ご参考】2007-06-18

*1:恋愛要素をモチベーションとして主人公が成長する物語は枚挙に暇がありませんが、「のだめ」はそのモチベーションを越えるほどの「限能感」を主人公(のだめ)に与えています。一方で、千秋には高機能版のだめな「Rui」という「代替可能な」キャラをあてがっています。ある意味、双方に試練を与えている状態です。