テレビドラマ『ハチワンダイバー』第11話感想
とうとう最終回です。
・・・・・・まあ、こんなものでしょう。こんなこと言うと原作厨と思われるかもしれませんが、やはり原作を忠実になぞってた時期が一番面白かったです。それから先のオリジナルストーリーについては、超展開には驚きましたけどやはりドラマ的にはオチをつけなくてはいけなくて、そしたら急に無難なところに無理やり着地させたという印象を受けました。いや、リアル1分将棋とかドラマならではの見所はありましたけと、最後の方になってからストーリー上のオチをつけることが優先されてしまい、将棋の扱いが軽いものになってしまったのが、やはり将棋ヲタ的には残念でした。
一度夢を挫折してもあきらめずに追いかけ続ければいつか叶う、というありがちなオチではありましたけど、ただ、最後に示された道は特例によるプロへの道というものでした。これは、瀬川四段がプロになった手法に近いものだと思われますが、このときも”特例”の名の通り、原則論からは問題があるものの、ただ、瀬川四段(当時はアマチュア)が対プロ戦で残した戦績・高勝率を考慮しての特例措置として実施されたものでした。こうした経緯を受けて、現在ではプロ編入制度が定められています。夢への再挑戦というテーマでしたら、こちらのルートによる表街道を堂々と歩んで欲しかったと思います。
最終回ですが、桐嶋の後を継いだそよがいきなり千里眼とか言い出したのには苦笑以外の何ものでもありませんでしたし、あっさり再戦が行われたのも将棋というか勝負の扱いが軽すぎてどうにも落ち着きが悪かったです。ただ、菅田と師匠とのやりとりで、ダイブの先として明鏡止水の境地というのが示されたのはちょっと面白いです。ダイブという広くて深い将棋盤の海からの手探しの限界の先の可能性。明鏡止水の境地の中から浮かび上がってくる手というのは、ともすれば単なる山勘と思われるかもしれません。しかしながら、決してそうではありません。これまで指してきた将棋と読みの蓄積が経験として積み重なってきた結果として浮かび上がってくる手。それは、乱暴な言い方をすれば”正しい直感”とでも呼ぶべきものです。なので、将棋ドラマのオチとしてはそれなりに説得力があったと思います。
などと、最後の方は文句ばっかり言ってるような感想になってしまいましたが(苦笑)、でも将棋ヲタからすれば将棋がテレビドラマの主題になってというだけでも大きな出来事であったことは間違いありません。これをきっかけに将棋がポピュラーなものになってくれればいいなぁと思います。将棋はとっても面白いですよー。
将棋の解説ですが、菅田対そよの一局目は盤面が全然分からなかったので飛ばします(笑)。
菅田と師匠の会話の中で出てきた大迷路という詰め将棋は、江戸時代の頃の名人・伊藤宗看(3代)によって作られた詰将棋作品集『将棋無双』の最後の収録されている詰将棋のことです。「こんなの解けるわけねーだろ」という超難題です。
興味のある方はぜひ挑戦してみてください。ググれば答えも分かりますが(いい時代になったものです)、意味不明の詰み手順には唖然とされることと思います。
最後は、菅田対そよの最終局です。
千里眼によって戦法を読まれたかに思われた菅田ですが、この銀上がりを指して矢倉を目指していることを宣言します*1。
矢倉は将棋の純文学、と言われることもありますが、互いにがっちりと組み合った相矢倉には本格的というイメージがあります。タイトル戦などの勝負どころでも相矢倉が指されることは多いですし、最終回に相応しいセレクトだと思います。
そよは受け将棋の気風そのままに菅田の攻めを受け止めて押さえ込みを目指します。しかし菅田はここから柔軟な指し回しを見せます。
二こ神さんの変則的な指し手。
文字山の穴熊。この後、斬野戦を思わせる嵐の中に突入する手も出ます。さらには、明鏡止水の手も出て、菅田はついにそよを追い詰めます*2。そして、ついにその時がきます。
▲2一角。この手でそよ投了。後手玉は▲1二金からの詰めろがかかっていますが、受けても一手一手で適当な受けがありません。先手玉に詰みはないので投了もやむなしです。
ちなみに、この将棋には元となった棋譜があります。2007年に行われた銀河戦の決勝戦・渡辺明竜王対森内俊之名人*3戦がそれです*4。興味のある方はぜひ並べてみて下さいませませ。
●棋譜でーたべーす:渡辺竜王対森内俊之名人(元ネタとなった将棋の棋譜です。)
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