『電脳娼婦』(森奈津子/徳間文庫)

電脳娼婦 (徳間文庫)

電脳娼婦 (徳間文庫)

 『クラッシュ』全体を通して、わたしは自動車を単なる性的イメージではなく、今日の社会における人間生活全体のメタファーとして使用している。そうした小説には性的な内容とは離れて政治的意味もあるのだが、わたしとしてはやはり『クラッシュ』を世界最初のテクノロジーに基づくポルノグラフィーだと考えたい。ある意味で、ポルノ小説とはもっとも政治的な形のフィクション、人がお互い同士を一番てっとり早く、容赦なく利用し、搾取するやり方について扱う小説だと言うこともできるだろう。
『クラッシュ』(J・G・バラード/創元SF文庫)序文p12より

 エロSF短編集です。収録6作品中、「この世よりエロティック」「シェヘラザードの首」「電脳娼婦」「少女狩り」の4作は、「官能小説を」との依頼を受けて書いたものだそうです。SMあり同性愛ありレイプあり。中高年男性を性的に興奮させる目的で書かれた、おじさんに優しい作品集です(笑)。そのせいもあってか、全体的なSF度は薄めではありますし、実のところそんなにエロいとも思いません。正直、『からくりアンモラル』に比べると本書はエロ的にもSF的にもちょっと落ちると思いますが、ネタが軽めということもあって読みやすいといえば読みやすいのかもしれません。

この世よりエロティック

 亡くなった友人となぜか電話で会話ができて、そこで語られるのは死後の世界の変態性愛。そこは地獄か天国か。

シェヘラザードの首

 千夜一夜物語森奈津子の手にかかればこの通り(笑)。

たったひとつの冴えたやりかた

 傑作SFとして知られるディプトリーの同名小説も森奈津子の手にかかればこの通り(笑)。マゾヒストが満足できる究極のプレイ「たったひとつの冴えたやりかた」を探すための変態物語。プレイの記憶はメモリーカードによって移植できるというSF的なアイデアの無駄な使い方の光った逸品です(笑)。

電脳娼婦

 表題作にして本書の白眉。罪と罰。支配性と被支配性。搾取する者とされる者。それらが電脳空間というSF的アイデアによって見事に融合していると思います。傑作です。

少女狩り

 SF要素ゼロ(笑)。ただし、背徳感という意味では本作が一番でしょう。救いがないからこそ残るはエロスのみ。まったくね……。

黒猫という名の女

 中編作品です。禁欲主義的な風潮が蔓延する中、性的な場面にのみ特殊な能力を発揮することのできる能力者たちの織り成す変態ストーリー。超能力まで使って肉体的にいろいろエロエロと工夫しても、結局は精神的なところに行き着いちゃうのが面白いですね。ちょっと物足りないという気がしないでもありませんが(笑)。