テレビドラマ『ハチワンダイバー』第4話感想

 菅田対文字山戦も3話と同じく盤外も盤上もほぼ原作どおりの展開でした。場所がファミレスから将棋道場に移ってるのが変更点といえば変更点で、ウェイトレスさんがドン引きしているなかでの将棋というのも捨て難かったと思いますが(笑)、よい子が真似したらいけませんからね。
 この文字山戦は原作でも将棋の内容が濃厚に説明されていますが、それがドラマでも忠実に再現されています。その点、将棋オタからすれば嬉しい限りではありますが、一般の視聴者の方がどのように思われたのかはちょっと気になります。というのも、原作の文字山戦はアンケートの結果があまり思わしくなかったそうなのです。

3巻では思い切って将棋の比重を大きくして描いてみたんですけど、やっぱりわからないという読者の意見が多かったんです。僕自身はいい感じでテンパっていて最高MAXな感じで描いていたんです、伝わってくれって。でもやっぱりダメだった。
Webだよ。:NO COMIC NO LIFE 第70回柴田ヨクサル先生より

 で、ドラマを見て思ったのは、やっぱり文字山戦は説明が多いですよね(笑)。原作の方は、活字を大きくしたりして緩急をつけることで単なる情報の羅列にはならないようにしていますが、普通の読者にはちょっと引かれがちなのかもしれません。それでも漫画なら難しい内容でも精読したり再読したりできますし、何なら逆に飛ばし読みしても構いませんが、ドラマとなるとそうはいきません。一度の視聴でどう思われるのかが勝負です。この点、個人的には菅田役の溝端淳平と文字山役の劇団ひとりはよく頑張ってたと思います。思いますが、あの高度なやりとりが果たして視聴者に伝わっているのか少々心配です。「何かよく分からんけどすごいことやってるなぁ」程度にでも分かっていただければよいのですが。あと、一手指してはチェスクロックを押すという仕草が交互に繰り返されるシーンが表現されてたのはよかったです。ああした動く絵による表現こそドラマ化の醍醐味ですね。
 それにしても文字山の指し方は気持ち悪くて良かったですね。いや、少しくらいのアクションとかつぶやきとかぼやきとかはプロアマ問わず珍しいことではありませんが、でもあれはやり過ぎです。マナー違反を通り越して迷惑なのでよい子は絶対に真似しないでくださいね(笑)。
 CGになったなるぞうくんたちはかわいかったです。私自身は将棋の駒は捨て駒だと思ってるのであんな風に駒を擬人化したり感情移入したりすることはありませんが(笑)、でも、駒を擬人化することでその種類を区別できるようになれば、そこから駒の特性を理解することにもつながるでしょうから、初心者の方が将棋をイメージする際にはそれはそれとしてありだと思います。
 で、ドラマはホントにいいところで次回へ続くになっちゃいました。すごい凶悪な引きです。もっとも、次回予告を見ちゃうと勝負の結果は予想が付いちゃうような気がしないでもないですが(苦笑)、次回どうなるのか楽しみにしましょう。
【関連】インタビュー:文字山ジロー役 劇団ひとりさん



 将棋の方は、菅田の四間飛車対文字山の居飛車穴熊となりました。菅田が相手にあえて穴熊に組ませた際、原作だと藤井システムについての言及があるのですが、ドラマでは省略されてました。藤井九段カワイソス。

 後手の文字山の玉は盤の隅に閉じこもって周囲を金銀桂香に囲まれています。この囲いを穴熊といいます。遠くて堅い穴熊のメリットは、何といっても「王手がかからない」ということにあります。穴熊の堅さを背景とした飛車切り・角切りをいとわない執拗な攻めのことを”穴熊の暴力”と呼ぶことがあります。広さやバランスよりも堅さを重視する風潮のある現代の将棋では穴熊に組めさえすれば作戦勝ちと言っても過言ではありません。

 1回目のダイブの局面です。飛車と銀による文字山からのプレッシャーを、菅田は受け流すことで優位な局面を作り出すことに成功します。が、

 桂馬の楔から△8四角と出た局面です。一見ただの角捨てのようではありますが、取ると△2八飛から寄ってしまいます。菅田は▲7五歩の犠打から▲6六銀とすることで角銀交換に持ち込みましたが、相手に銀を渡したことで食いつかれることになります。

 2回目のダイブの局面です。受けに回るのか。それとも攻め合いか。穴熊相手に受けに回っても細い攻めをつながれてジリ貧に陥る恐れがあるので、読みきれないながらも菅田は攻め合うことにしました。原作だと強気に攻めてるのですが、ドラマの方だと弱気に攻めてましたね。一見矛盾しているようではありますが、気持ちの強弱と攻防の選択は必ずしも一体ではないわけで、そういう意味でドラマの菅田の表情はこれはこれで面白かったです。

 いきなり飛車の王手。この飛車、果たして取れるのか取れないのか。わずかな時間で決断しなければならないのは確かに至難の業でしょう。読みきれずに追い込まれた菅田は、▲1七玉とかわして相手に読ませることを選びます。開き直りといえば開き直りなのですが、相手があっての勝負ですから、相手の応手に自分の命運を委ねるのもひとつの決断だといえるでしょう。ちなみに、ここで菅田の指した▲1七玉は”盤上この一手”の最善手です。この手で詰みはありません。なので文字山はと金を払いましたが、この手によって菅田は自玉に詰みがないことを相手に教えてもらったことになります。となれば、あとは攻め合うのみです。果たして勝負の行方や如何に。

【感想】 第1話 第2話 第3話 第5話 第6話 第7話 第8話 第9話 第10話 第11話