ハチワン=081=オッパイと読んでしまう人のための『ハチワンダイバー 7巻』将棋講座
- 作者: 柴田ヨクサル
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2008/05/02
- メディア: コミック
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(以下、長々と)
●第1図(p9より)
先手番の菅田は7手目に早くも▲7四歩と仕掛けました。この指し方は、かつて菅田が斬野戦で酷い目にあった新石田流と呼ばれるものです。
(参考:「7手で終わってる」ってどういう意味?)
一般に先手の方が指しやすいとされている手順にあえて飛び込むところに見えない対戦相手、鬼将会の真剣師の自信の程をうかがい知ることができます。以下、△同歩▲同飛△8八角成▲同銀△6五角▲5六角△7四角▲同角△7二金▲5五角△7三歩▲5六角に△1二飛!(第2図)
●第2図(p15より)
この飛車打ちは香取りを防いだだけの手です。無条件に香車を取られるわけにはいかないのは確かですが、後に活用が見込まれるとはいえ、このような僻地に飛車を打つのは気がひけます(笑)。この後、先手は▲3四角として歩得に成功。後手は△3二金として一応局面は落ち着くことになります。2枚角対2枚飛車という滅多に見ない局面からの駒組み合戦です。飛車と角は共に価値の高い駒ではありますが、わずかながら角よりも飛車の方が通常は価値が高いとされています。その動きの特性上、角は盤面の半分しか動くことができないのに対し飛車はすべての位置に移動することができることなどが理由として考えられます。もっとも、「序盤は飛車よりも角」といわれるとおり、角には飛車よりも相手の隙を突きやすいという側面もあります。また、たかが一歩とはいえ駒得には間違いありません。駒得は持久戦になれば必ず生きてきます。そこで後手は相手の2枚角をいじめながら金銀を押し上げて戦いを起こそうと狙いますが、先手の菅田としては2枚の角を上手に動かして大過ない中盤戦を迎えることを志向することになります。
●第3図(p19より)
戦闘画面では互角と表示されています。将棋ソフトを使ったことのある方ならお分かりかと思いますが、最近のコンピュータは形勢判断までしてくれます。で、この局面は駒の損得にそれほど差があるわけでもなければ成り駒もありませんから、コンピュータが互角と判断するのは分かります。もっとも、人間の目線では先手の方が指しやすく見えるはずです。理由は玉の安定度と金銀の連結のよさにあります。先手陣は離れ駒がないですし玉も安全な位置にいます。対して後手玉は居玉のままですし金銀も離れていて、まさにギリギリの指し方です。
●第4図(p25より)
きわどいバランスを保ちながらも、後手はさらに金を押し上げていきます。守備駒であるはずの金を2枚とも前線に押し上げる指し方は圧力十分ではありますが、ディフェンスラインの裏を取られるとすぐに危なくなってしまいます。先手は▲3七桂とさらに力を溜めますが、△2四歩と伸ばされて角頭を狙われては戦いを始めるしかありません。
●第5図(p29より)
▲4五歩でいよいよ開戦となりました。互いの玉の中間点での戦いは文字通り”天下分けめ”です。もっとも、形勢はやはり際どいながらも先手よしだと思われます。後手陣はいつ崩れてもおかしくないですが、微妙なバランスを保ちながら飛車を活用してきます。そうして迎えたのが問題の局面です。
第6図(p34より)
実はここまでの局面にはモデルとなった実戦があります。2006年棋聖戦第3局、鈴木大介八段対佐藤康光棋聖戦がそれです。
(参考:棋譜でーたべーす:2006年棋聖戦第3局)
その将棋では第6図から、▲同金△同飛の後に▲2七歩としたのですが、△3六飛▲3三金に△同飛と引かれて後手の守備力を高めてしまい、そこから逆転を許すことになりました。本譜の第6図以降、「ダイブ」から▲同金△同飛に対しての▲3三金の踏み込み(第7図)はモデルとなった棋聖戦の局後の検討で示された手順です。
●第7図(p50より)
飛車が玉の横を素通しになったままという怖さはありますが、それでも踏み込まなくては勝利をつかむことはできないのです。将棋においてリードとは守るものではなくて広げるものなのです。
●第8図(p53より)
第7図から、△2九金▲4九玉△3三角に▲3一飛で王手角取りをかけて、仕方のない△4二玉(他の手だと角を取られてしまいます)に▲8九飛成として相手に下駄を預けました。この局面で果たして後手側に有効な手があるか否か。
……どうもなさそうですね。私も考えてみましたし、PC様にもご神託を仰いでみましたが、攻めにも受けにも有効な手が見当たりません。△7一金としても▲9一龍と手順に香車を取られるだけです。そもそも固くなっているようにも思えませんし攻め味もなくなってしまいます。何か具体的な有効手がありましたらどしどしコメントくださいませ(笑)。「押して駄目なら引いてみろ」じゃないですが、将棋には、このように単純に攻め続けるよりもあえて相手に手を渡した方がいい場合があります。そこが将棋の面白くて奥の深いところだと思います。
さて、本譜の後手は結局△3六歩と桂頭を攻めてきました。攻めるならこれしかないと思いますが、首を差し出した手ともいえるでしょう。ここから菅田は一気に決めに出ます。▲4六桂△4三銀▲4五桂△4四角▲5四桂打△3二玉▲3三歩△2三玉に▲5三桂成で投了となりました。
●第9図(p72より)
桂馬を跳ねての角による開き王手ですが、3六に歩を打ってしまっているので歩で防ぐことができません(「二歩」は反則です)。まさにカウンター炸裂です。投了図は先手玉は安泰なのに対して後手玉には適当な受けがありません。一例ですが、仮に△3三玉としても▲4三成桂△同玉▲4一龍△5三玉に▲6五桂と左の桂馬まで跳ねてきて以下△6四玉に▲4四龍で受けなしになります。投了もやむなしです。
本書ではゲームセンターでのコンピュータ対局からネットを通じての鬼将会の真剣師とのネット将棋となりましたが、対戦相手の顔が見えないネット将棋というのはいかにも現代的なシチュエーションです。羽生善治はネットの進化が将棋界に与えた影響について次のように述べています。
「ITとネットの進化によって将棋の世界に起きた最大の変化は、将棋が強くなるための高速道路が一気に敷かれたということです。でも高速道路を走り抜けた先では大渋滞が起きています」
(梅田望夫『ウェブ進化論』p210より)
【参考】文芸版「高速道路論」
いわゆる「高速道路論」と呼ばれているものですが、その一翼を担っているのがインターネット将棋です。将棋のネット道場はたくさんありますが、一番有名なのは『将棋倶楽部24』でしょう。
●将棋倶楽部24
この道場では自分の実力に見合ったレーティングを基準に対局することで確実に力を付けることができるようになっています。レーティング上位ともなれば奨励会員やプロ棋士も時折指していることもあるそうです(ハンドルネームなので誰がそうなのかは分かりませんが)。昔は強い将棋指しを求めての道場破りみたいなことをしなければなりませんでしたが、今はネットさえあればどこでも誰でも将棋を指せて、しかもトップクラスの実力者と対局することが可能な環境が用意されているのです。顔が見えない分、初心者でも気楽に指すことができるでしょうから、将棋に興味があるのでしたら取り合えずネット道場に通ってみるのも有力な手段でしょう。もっとも、一度指し始めると結構くせになるので指し過ぎには気をつけて下さいね(笑)。
ま、こんなところでしょうか。好きな漫画なので長々と語ってしまいました。何かありましたら遠慮なくコメント下さい。ばしばし修正します(笑)。
- 作者: 梅田望夫
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2006/02/07
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