『図書館戦争』をより楽しむための5W1H
アニメ『図書館戦争』、ようやく関西でも観れるようになりました。
主人公・笠原郁はじめキャラクターたちがアニメという舞台で生き生きと動きまわっており、雰囲気が非常に良く出ていると思います。第一話を見る限り、ラブにコメする方向性なのかなぁ、と感じたり。
しかしながら物語背景である「メディア良化法がある現代」についての説明がやや端折られぎみであり、アニメで初めて「図書館戦争」を知る方は「なんでこの人たち戦ってるの?」と戸惑う方々もしばしば。*1
というわけで、『図書館戦争』をより楽しんでいただけるよう、「図書館戦争」が描く「世界」について5W1Hでつらつらと語っていこうかな、と思います。
When(いつの時代か?)
昭和の次にくる架空の年号、「正化」31年が物語の舞台です。
昭和最終年度に「メディア良化法」が成立、施行されそれから31年が経過しています。
「メディア良化法」とは公序良俗を乱し人権を侵害する表現を取り締まる法律として制定されましたが、実際には小売店に対する入荷物の検閲、版元に対する流通指し止め命令、マスコミに対する放送禁止あるいは訂正命令、インターネットプロバイダーに対する削除命令など、事実上の言論統制です。
実在の年号「平成」の替わりに「正化」という架空の年号が使われているものの、『図書館戦争』で描かれている時代は「もしかしたら、ちょっと先にある世界」なのかもしれません。*2
実際、「青少年インターネット規制法案」なるものも成立に向け水面下で動いているという話もあり、『図書館戦争』の世界がひとごとではなくなってきていると思います。
【参考】「青少年インターネット規制法案」が成立すると、日本のネットは完全に死ぬ - GIGAZINE
Where(どこで戦っているのか?)
『図書館戦争』の名前のとおり、戦闘の舞台は主に図書館です。
言論規制である「メディア良化法」に唯一対抗できる根拠法を持つ図書館は、検閲を退けてあらゆるメディア作品を自由に収集し、かつそれらを市民に供する権利を持つ公共図書館は、メディア良化法を執行するメディア良化委員会や実際に検閲を行う良化特務機関に対する「敵」として存在しています。
図書館の自由に関する宣言
一、図書館は資料収集の自由を有する
二、図書館は資料提供の自由を有する
三、図書館は利用者の秘密を守る
四、図書館はすべての検閲に反対する
図書館の自由が侵されるとき、われわれは団結して、あくまで自由を守る。
【参考】日本図書協会HP
上記の宣言は実在するものです。
図書館は「図書館の自由法」と呼ばれるこの根拠法を拡大解釈し、超法規的に「図書隊」と呼ばれる組織を構築、良化特務機関が図書館に対し検閲対象書籍を回収するのを防いでいるのです。良化特務機関と図書隊の構想はエスカレートし、武力を伴っているのが実情です。
基本的に図書館は専守防衛。良化特務機関の攻撃を受けてから反撃を開始します。図書館以外で戦闘を行うことは稀なのですが、書店なども(武力は伴いませんが)抗争の舞台になったりします。笠原郁は学生のころ、書店で欲しかった本が良化特務機関の「検閲対象」として没収されそうになったため必死に抵抗し、たまたま通りかかった「王子様」に助けられます。彼女はその「王子様」に憧れ、女だてらに防衛員を志望したのです。
Who(誰が戦っているのか?)
先ほど説明したとおり、書物を検閲し、没収するために図書館に攻め込む「良化特務機関」と、「図書館の自由法」に従い本を守る「図書隊」との武力抗争です。作品タイトル『図書館戦争』のとおりです。
笠原が配属された「図書特殊部隊(ライブラリータスクフォース)」は防衛員から精鋭を選抜されて編成された部隊であり、平時は基地に駐屯し、各図書館の要請に応じて出動します。通常図書館業務から大規模攻防戦までその任務は幅広く、笠原は特に事務作業系に苦労します。
主人公笠原をはじめ、同僚の手塚、上司の堂上、小牧、玄田も図書特殊部隊ですが、笠原のルームメイトである柴崎は業務部であり内勤業務です。しかしながら柴崎も彼女たちの戦いに陰ながら手助けをするようになります。
Why(なぜ戦っているのか?)
図書館が守るものは本だけではありません。良化特務機関による「検閲」、「言論統制」に対抗する最後の砦です。
物語ではメディア良化法成立前に最も反対すべきであるマスコミが政府発表を咀嚼しないまま垂れ流し報道を行い、形骸化して実効を持たない政府批判に終始し、メディア良化法の本当の恐ろしさを伝えず無批判に準じた結果、成立後に骨抜きにされている状況です。
「本当はここまで書きたい、でもここまで書いたらあの団体やこの団体が目をつけるのではないか。だとすれば逃げ道としてここまでは書かずにその手前で止めておくほうが安全だ。それがね、物語の筋レベルのことではないのですよ。一場面の一つの文章で、単語を一つ加えるか加えないかのレベルでの保身になるのです」(『図書館革命』p90)
明らかな言論弾圧であるこの法律がなぜ施行されたのか。それは「我が身に降りかからなければ反応しない無関心」と「押し付けの善意」によるものだと作中の登場人物の口から語られます。
私たちの(あえて「私たちの」と言います)本を守るのは、図書館以外にないのです。
1冊の本に対してなぜ彼らが命を賭して戦うのか。
本を焼く国ではいずれ人を焼く、言い古されたその言葉は反射のように脳裏に浮かんだ。(『図書館戦争』p271)
図書隊は本だけではなく、本に対する「規制」そのものから「表現の自由」を守っているのです。
How(どうやって戦うのか?)
正化11年2月7日、メディア良化委員会に同調する政治結社が東京の日野市立図書館を襲撃した、いわゆる「日野の悪夢」以降、図書隊は防衛力を高めます。良化特務機関との抗争は火器も含めた激しいものとなっていきます。ただし、図書隊の発砲権は手続きを踏まない限り図書館施設内に限定されており、また図書隊制度を作り上げた稲嶺指令の唱える「図書防衛はあらゆる他者に対して先制の理由となってはならない」*3という理念により交戦の最初の一発を常に受けることを甘んじています。
また、図書館は地方行政独立機関として独立採算で武器などを調達しており、資金面の課題が常に深刻です。一方の良化特務機関は国からの資金援助を受けていますので湯水のように銃弾を浴びせてくる、という裏事情もあります。
What(小説とアニメの違いは何か?)
アニメ版『図書館戦争』はメディア良化法が招いた言論統制の世の中について(今のところ)深く突っ込んでいません。ラブやコメの部分にフォーカスしていますのである意味ドラマ部分に特化しており、これはこれで面白いのですが、作品の持つテーマとして「こんな世の中になったらイヤだなー」(作者あとがきより)という世界と、それに対するプロフェッショナルとしての図書隊もなかなか考えさせられる内容だと思っています。
アニメではおそらく端折られる、『子供の健全な成長を考える会』と子供たちの戦いや、警察の捜査要請拒否に対するマスコミからの図書館バッシングの話など、アニメで描かれる人間ドラマ「以外」の部分も結構面白いと思いますので、アニメで興味を持たれたかたには是非とも原作を読むことをオススメします。
というわけで原作未読のかた向けに『図書館戦争』の舞台背景をつらつらと書いてみました。
図書館戦争』は「メディア良化法」が施行された「半歩先の未来」を舞台とした物語です。作中で「読書家以外の人にとって検閲を行なうメディア良化法は他人事。そして世の中には読書家以外の人ほうが圧倒的に多い」という指摘もありますが、物語の根底に「本とは何か、表現の自由とはどういうことか」というテーマがあると思います。
とはいうものの原作はラブコメ部分もノリノリに描かれていますので読んでてニヤリングが止まりません。
もちろん、小説やマンガにポロロッカするのがいちばん良いかもしれませんが、当記事を『図書館戦争』をより理解し楽しむための一助としていただけたら幸いです。