『キムラ弁護士、ミステリーにケンカを売る』にケンカを売る
- 作者: 木村晋介
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2007/11
- メディア: 単行本
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面白いのはやはり刑事ミステリー、あるいは民事事件としての論点についての弁護士としてのツッコミです。私自身、こんなのやこんなのやこんなのを書いてサイトに載っけてるくらいですから、こういうツッコミは大好きです(笑)。
白状しますと、本書で取り上げられている本のうち実は読んでないのがほとんどだったりしますが(汗)、私はネタバレとかあまり気にしないタイプなので普通に読んじゃいました(気にする人は本書は読まない方が無難です)。法律好きとしてはそれなりに楽しめましたし、『司法改革』や『量刑』などは未読ではありますが、そこで語られていることはもっともだと思います(後日読んでみることにします)。
ミステリというのは、殺人を始めとした犯罪を題材として扱うことが多いですが、作中で発生する出来事・事象、意外な真実などは作品ごとに様々なものがあってよいと思うのですが、それらを法律用語や条文に照らし合わせる際の当てはめの段階になると、たまに疑問を覚える作品があるのも確かです。また、警察の捜査について脇の甘さが目に付くのも、実務に従事されてる方からすれば納得行かないことでしょう(もっともこれについては、そうじゃないとお話にならないというのはあるので多めに見て欲しい気もします・笑)。そうした点を指摘してくれている本書は、現実に法治主義国家で生活している身からすればとても勉強になることだと思います。
ただ、既読の本については引っかかる点もありました。特に、『犬神家の一族』についてのキムラ弁護士のイチャモンには逆にイチャモンをつけたくなります。まずは以下の記事をお読み下さい。
・『犬神家の一族』で考える遺言の内容の法的有効性 - 三軒茶屋 別館
・犬神家の遺言 - アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常
確かに、このような遺言が裁判で争われたことはないので有効か無効かの判断は難しいですが、公序良俗違反で無効というのも考え方としてはとても有力だと思います。ただ、それはそうだとしても、ひょっとしたら有効と判断されちゃうかもしれませんし(実際、作中だと有効ということで話が進んでいます)、そうしたら遺留分の問題について考えないわけにはいかないでしょう。遺留分という法律的にとてもおいしい論点をなぜキムラ弁護士がスルーしているのか、私には理解できません。ましてや、本件の場合だと遺留分について弁護士が説明していれば作中で発生した悲劇も未然に防げたかもしれないわけで、検討の必要性はとても高いと思います。
なお、こうした減点主義での作品評価は、その作品を気に入ってる方にとってはとても不快なものかもしれません(スミマセン)。ただ、小説というのは、程度の差こそあれすべからくフィクションです。したがいまして、一見すると現実の世界を舞台にしているようであっても、厳密には現実の世界がそのまま小説の舞台となっているわけではありません。小説の舞台となっているのは、あくまでも小説の世界です。リアル度が高い小説の場合だと、そうしたミスは瑕疵として評価されるかもしれませんが、その一方で、それはあくまでもフィクションだということを忘れるわけにもいきません。現実は現実、フィクションはフィクションとして上手に付き合っていきたいですね(笑)。
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