有川浩『図書館革命』メディアワークス

図書館革命

図書館革命

 図書館シリーズ完結編です。
 敦賀原子力発電所をテロリストが襲撃。その襲撃がとある小説に酷似していたことから、メディア良化委員会は「メディア良化法」、いわゆる「メディア規制法」の範囲を、対象とするメディアだけでなくその「作者」にまで広げようとする。図書隊はこの危機にどうやって立ち向かうのか・・・というお話です。
 これにて4部作完結ということで、起承転結の「結」にあたる本作。これまでは中篇の積み重ねで物語が進んでいましたが、今回は一転して一つの大きなエピソードを書いています。
 物語をまとめるにあたり、図書隊たちの最大の敵、「メディア規制法」の姿が浮き彫りにされます。明らかな言論弾圧であるこの法律がなぜ施行されたのか。それは「我が身に降りかからなければ反応しない無関心」と「押し付けの善意」によるものだと語られます。本作で重要な役割を担う小説家、当麻蔵人は笠原郁に話します。

「本当はここまで書きたい、でもここまで書いたらあの団体やこの団体が目をつけるのではないか。だとすれば逃げ道としてここまでは書かずにその手前で止めておくほうが安全だ。それがね、物語の筋レベルのことではないのですよ。一場面の一つの文章で、単語を一つ加えるか加えないかのレベルでの保身になるのです」(p90)

 例えば記事一つ、表現一つとってもその記事や表現が「デメリット」になると判断されると「その記事を撤回しろ」「その表現を修正しろ」という要求が寄せられます。たとえそれが、正しい記事や表現であってもです。個人発のブログなどでは書き手の気力が続く限り応戦するかもしれませんが、所詮は個人なのでいずれ限界が来ます。そういった攻撃から「作者」を守るのが「出版社」であり、思うに、「マスコミ」の存在価値の一つとしてまさに「表現の自由の保護」が挙げられると思います。*1
 「図書館」シリーズで描かれる世界は「メディア良化法」が成立しメディアに対する実質的な「検閲」がまかり通る「近い未来」ですが、まさしく「いま、ここにある危機」を描いていると思います。作中の「読書家以外の人にとって検閲を行なうメディア良化法は他人事。そして世の中には読書家以外の人ほうが圧倒的に多い」という指摘には胸を衝かれました。
 登場人物たちの楽しい掛け合いは相変わらずですし*2、派手なドンパチや玄田隊長いわく「大人のケンカ」な良化委員との丁々発止など見所満載で非常に楽しめましたが、物語の根底にある「本とは何か、表現の自由とはどういうことか」について改めて考えさせられる作品でした。
 現時点での有川浩の「代表作」であり「最高傑作」と呼んでも過言ではない作品(シリーズ)です。作者に惜しみない拍手を送りたいと思います。
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 ちなみに、前作同様、本作でも「裁判」や「憲法の解釈」が重要な鍵を握ります。アイヨシやid:ronnorさんがどのように感じるか(読み解くか)楽しみにしたいなあ、と半分ぶん投げに近い形でさせてトスさせていただきます。
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*1:あえて「現状を翻ってみると」という指摘はしませんが

*2:特に最初のシーンは読みながらニヤニヤしっぱなしでした