『からくりアンモラル』(森奈津子/ハヤカワ文庫)

- 作者: 森奈津子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2007/07/01
- メディア: 文庫
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いたって真面目な話ばかりですが、9編すべてに共通しているのはエロです。エロがデフォルトになっているからこそ、アブノーマルな性も平気で描けますし、セックスに至るまでの過程やその内面を平然と描くこともできます。
少女という概念は、子どもから女性までの間の幻想です。その一瞬を切り取るために、本書では様々なSF的アイデアが用いられています。SFという科学性があるからこそ、そこには切なさがあります。科学と性愛とは、ともすれば相反すると思われる要素ではありますが、それこそまさに人間性の両輪です。人間の哀しさと凛々しさとが軽やかな筆致で描かれています。
表題作〈からくりアンモラル〉はアンドロイドを介した性愛の目覚めが描かれているのですが、春奈と秋月の対比が秀逸です。アンモラルゆえにプラトニックというのがシニカルです。文体は軽妙ながら決してコミカルではありません。〈あたしを愛したあたしたち〉はタイムトラベルものですが、タイムトラベルをこんな風に利用するとは思いもよりませんでした(笑)。〈愛玩少年〉は吸血鬼ものです。吸血行為に性行為のメタファーという一面があるのは広く知られていますが、ここまでダイレクトに置き換えてしまうのも逆に珍しいのではないでしょうか。タイトルの”愛玩”は”哀願”のニュアンスも含んでいるのでしょうね。〈いなくなった猫の話〉は異種族恋愛ものです。最後の2ページのやりとりが本書のテーマを物語っていると思います。〈繰り返される初夜の物語〉は、文庫化に際して新た加えられたものですので、単行本をお持ちの方はこれだけ立ち読みするなりしてフォローして下さい(笑)。風俗のプレイをここまでクールに描いたものも滅多にないでしょう。凄いです。母の死後、マサヤは母のように自分を無条件で認めてくれる女性を探した(p186)の一文にマザコン(あるいはファザコン)の本質を見たように思いました。〈一卵性〉と〈罪と罰、そして〉は、ともに”攻め”と”受け”の関係性について考えさせられます。そこで描かれているのは、複雑で曖昧で微妙で屈折してて、とても緊張した関係性です。〈レプリカント色ざんげ〉はもっとグチャグチャです。レプリカントで何でもありなだけに何でもさせます。だからこそ、性愛と快楽と恥辱と嗜虐の裏表を自由に描くことができるわけですが。〈ナルキッソスの娘〉は、本書収録の短編中一番の出来だと思います。ゆえにノーコメントということで。
本書の巻末には榎本ナリコの解説がついているのですが、これがとても素晴らしいです。それさえ読んでいただければ、かような私の駄文など読んでいただく必要はまったくありません(苦笑)。お目汚しと思いつつ、本書を手に取る際に僅かながらでも参考になれば幸いです。
本文をタイプ中、”切なさ”と打とうとしたら”刹那さ”と誤変換されました。ちょっと面白かったです。