『スレイヤーズ!』とクトゥルフ神話
自分が無意識に当たり前だと思っていたこと、常識だと思っていたことが、実はそうではなかったというときの名状しがたい気持ちには、誰しも心当たりがあろうかと思います。そんな無駄知識を今回は晒してみたいと思います。
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『スレイヤーズ!』と『クトゥルフ神話』の相関関係表(暫定版)
スレイヤーズ! | クトゥルフ神話 | |
---|---|---|
魔族 | 旧支配者 | |
神族 | 旧神 | |
金色の魔王 | アザトース | |
赤眼の魔王 (シャブラニグドゥ) |
クトゥルフ | |
冥王フィブリゾ | ヨグ=ソトース | |
ゼロス | ナイアルラトホテップ | |
賢者の石(魔血玉) | 輝くトラペゾヘドロン | |
異界黙示録 (クレアバイブル) |
死霊秘法 (ネコロノミコン) |
(以下、長々と。)
『スレイヤーズ!』とクトゥルフ神話の関係については『「スレイヤーズ」の超秘密』(ただし研究本としてはイマイチ)という本でも触れられてはいるのですが、より具体的に指摘してみました。ただ、こうして表にしておきながら言うのも何ですが、これが正しいということはまったくありません。と言うのも、クトゥルフ神話(参考:Wikipedia)とは人工的な神話で、その創始者はラヴクラフトです。彼はその神話の創世に当たってオリジナリティにこだわりましたが、彼以外の作家がこの神話を使って物語を書くことを否定していませんでしたし、それどころがむしろ積極的に奨励していました。それによって大勢の作家が現在に至るまで多数のクトゥルフ神話の系列に属する作品を発表していますが、それぞれの作家が自由に物語を書いているため神話の統一性という観点からは矛盾・齟齬が生まれてしまっているのは仕方のないことです。そして、それらすべてが正しいクトゥルフ神話なのです。とは言え、ここでは一応ラヴクラフトの原書(『ラヴクラフト全集1〜7』創元推理文庫)を中心としたイメージ(原理主義じゃないです)で、『スレイヤーズ!』と勝手に対応させました。上記の事情から異論も十二分に考えられますが、だいたいのところを分かってもらえればと思います。
このように、『スレイヤーズ!』にはクトゥルフ神話の影響を受けたと見られる要素が散見されます。しかし、その一方で、
「――この世のなかには、あたしたちが住んでるこの世界とは別に、いくつもの世界が存在しているのよ。そのすべての世界は、遠い遠い昔、何者かの手によって”混沌の海”に突き立てられた、無数の”杖”の上にあるのよ」
「それぞれの世界をめぐっては、はるかな昔から戦い続けている二つの存在があるの。
一つは”神々”もう一つは”魔族”。
”神々”は世界を守ろうとするもの。”魔族”は世界を滅ぼし、それを支えている”杖”を手に入れようとするものたち。
ある世界では”神々”が勝利をおさめ、平和な世界が築かれ、ある世界では”魔族”が勝利をおさめ、その世界は滅び去った。そしてまたある世界では、戦いは今もなお続いている」
(『スレイヤーズ!』p103〜104より)
このような世界観や、黒魔術と精霊魔法との関係、さらには光の剣の正体(ある意味ストームブリンガー)を考えると、『エルリック・サーガ(書評)』に代表される『エターナル・チャンピオン』の世界観の影響も見ることができます。『ライトノベル☆めった斬り!』などでは『スレイヤーズ!』の世界はドラクエの世界だからなじみやすいと説明されていて、それはそうだと思いますが、その一方でこうした神話的で壮大な背景の設定もあって、この設定はストーリーにも大きく関わっています。『スレイヤーズ!』の巻末には編集部の解説がついてますが、既存のいわゆるファンタジー世界をそのまま持ち込むのではなく、それを消化し、自分の作品世界として再構築している点も評価できます。(p257より)と書かれています。まさにその通りでしょう。その上で、その世界観を単なる設定としてだけでなくストーリー上の伏線と解決に生かしていることが、単にキャラクタの魅力に頼ったものとしてではなく、奥行きのある物語として『スレイヤーズ!』を成功させた大きな要因の一つだと思います。
【参考】『スレイヤーズ!』ってミステリィ!
ちなみに、せっかくなのでクトゥルフ神話についての個人的オススメ作品を少々。いや、私もそんなに読んでるわけじゃないですが(汗)。
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『ラプラスの魔』は、コズミック・ホラーと言われるクトゥルフ神話のスケールの大きさ・SF的要素を上手く取り入れてるアクションホラーの傑作です。これを読めば、グレッグ・イーガンの短編集『ひとりっ子(プチ書評)』に収録されている『ルミナス』がより面白く読めるかも?(笑) それに対して『暗黒神ダゴン』はある牧師の内面、知れば知るほどダメになるのは分かってるけど知らずにはいられない、という知識欲の泥沼・インモラルで絶望的な恐怖がじくじくと描かれていて、これもまた傑作だと思います(参考:アイヨシの書評『暗黒神ダゴン』)。
あと、よく名前が挙がるものとして『デモンベイン』がありますね。元がゲーム(さらに元々はエロゲー)なのでオススメしづらくはありますが、ラヴクラフトの後にクトゥルフ神話を書き続けたダーレスが目指したものの究極形がこれじゃないかと思います。熱血ロボットものとしても楽しめますし、スケールの大きさは他の追随を許しません。そうした面白さは小説でも十分表現できてると思いますし、とっつき易さという点でもオススメです。
他にも、ミステリだと思ったら実はクトゥルフだった、みたいなとんでもミステリ(オススメですが)にも2作品ほど心当たりがありますが、それだとタイトルを挙げるだけでネタばれになってしまうので、ここではノーコメントということで(笑)。あなたにクトゥルフの加護がありますように。
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