『ミミズクと夜の王』(紅玉いづき/電撃文庫)

ミミズクと夜の王 (電撃文庫)

ミミズクと夜の王 (電撃文庫)

 第13回電撃小説大賞〈大賞〉受賞作ですが、ぶっちゃけ表紙絵につられて買いました(笑)。ライトノベルらしくはないかも知れませんが、とても小説らしい小説です。オススメです。
 白状します。泣きました。奇をてらわないこの真っすぐさに負けた。とは、本書巻末の有川浩の解説の言葉ですが、まったく同感です。もっとも、もしこのアイデアを基にして他の作家がストーリーを考えたとしたら、果たしてこんなに真っすぐなものになっていたでしょうか? もっと陰惨なものになるんじゃないかと思いますし、むしろそっちの方がいまどきのセオリーなんじゃないかとも思います。しかし、嫌なことばかりが伝えられる世の中だからこそ、せめて物語くらいは幸せが詰まっていて欲しいし、それでいて明日への活力になるような物語、そんな小説こそが王道であるべきです。ですから、”奇をてらわない”というのはベタとか平凡とかそういう意味では決してありません。とりあえず是非読んでみて欲しいです。
 どんな話? と聞かれれば、おとぎ話のような物語です。もっとも、おとぎ話と呼ぶには主人公である少女ミミズクの身の上には少々きついものがありますが。ジャンルとしてはファンタジーなのでしょうが、難しい設定は一切ありませんので、とても読みやすいです。西洋風の物語ですが、ミミズクの名前の由来は日本語じゃないと上手く説明できませんし(笑)、がちがちの西洋ファンタジーでは決してありません。物語としての懐の深いところが本書の魅力です。
(以下、ネタバレってほどでもないですが既読者限定。)
 幸せを知らない少女ミミズクと人間嫌いの夜の王との出会い。本書は、三人称で、その中でもミミズクの視点で語られることが最も多いです。一種のシンデレラ・ストーリーでして、その意味でミミズクの幸せはとても分かりやすいです。
 そのシンプルな物語に奥行きを与えているのが直接語られることのない視点、すなわち、夜の王・フクロウの存在の大きさです。ってか、本書の真の主人公は夜の王・フクロウだと言っても過言ではないですね。正直、ミミズクだけが幸せになるストーリーなら本書の結末以外にも、フクロウが想定していたであろうシナリオ、具体的にはアン・デュークとオリエッタの娘になるといった道がありました。そうではなくて、フクロウも幸せになれたのが嬉しいです。泣いた赤鬼だって、やっぱり青鬼にも幸せになって欲しいと思ってるはずなのですよ(ナンノコッチャ)。己か国かの問い。フクロウは己よりも国である魔物たちやミミズクの幸せを選び、なおかつ自らの身が解放された後も復讐をすることもなく森へと帰っていきます。正直、大虐殺が起きてても不思議じゃないですけどね(笑)。本書の大団円はすべてフクロウのおかげですよ。ミミズクがみんなを理解していく過程と、フクロウがみんなに理解されていく過程とが合わさって本書の結末を迎えるわけです。なかなかどうして、見事な展開じゃないですか。
 新人さんということで本書がデビュー作なわけですが、次作がとても楽しみです。おとぎ話というのは、確かに間違いなく褒め言葉なのですが、作者の名前・顔が記憶に残りにくくて、そこがおせっかいながらも心配な要素ではあります。
 ちなみに、本書の表紙絵はとても良いですね。いや、表紙買いしたくらいですからもともと気に入ってはいたのですが、読了後に見ると改めて良いと思います。この後、フクロウがいかにもこんな絵を描きそうな気がするんですよね。そんな想像力をかきたてられる素敵な表紙絵だと思います。